手首を曲げるたびに引きつれる感じがするとのことで、患者様が来院されました。数日前から続いている痛みでした。特に怪我をしたり、無理をしたりした記憶はないとおっしゃっていました。
動きを確認してみると、手首を手のひら側に曲げる動作で手の甲側に痛みが生じました。同じ手首の痛みであっても、どの方向に動かすときに、どの部位が痛むのかを区別することが診察の出発点です。
今回の診療では、手首を構成する小さな関節の動きに着目しました。手首の関節に矯正治療を行い、関節の周囲に鍼と灸の治療を施しました。治療後、痛みはほとんど消失しました。
ただし、これは治療直後に確認した変化です。日常生活で手首を再び使う際にも快適であるか、痛みが再発しないかは、もう少し確認する必要があります。
手首は一つの蝶番のようには動きません

手首には手根骨と呼ばれる小さな骨が8個、二列に並んでいます。これらの骨は前腕の骨と中手骨の間をつなぎ、複数の靭帯が骨同士の関係を維持しています。手首はひとかたまりの骨が一箇所で折れ曲がる構造ではありません。[1]

手首を曲げ伸ばしする際は、前腕と手根骨の間の関節、そして二列の手根骨の間の関節が連動して動きます。骨同士は互いに対して少しずつ回旋および移動し、関節面では転がりと滑りが生じます。これらの小さな動きが合わさることで、手首全体の動きが作られます。[1,2]
そのため手首を診察する際は、痛む部位だけでなく、どの方向で動きに違和感があるかや、周囲の組織の状態もあわせて確認します。
関節のアライメントが乱れると痛むことがありますか?

手首の骨をつなぐ靭帯が損傷すると、骨同士の間隔や動きが変化し、痛みや不安定感が生じる可能性があります。上の図は舟状骨と月状骨の間の靭帯が損傷した場合を説明した例です。[3]
亜脱臼とは、関節面の適合が部分的に失われた状態を指します。ただし手首を曲げるときに痛むという症状だけで、亜脱臼であると断定することはできません。腱や関節包の問題など、他の原因によっても手首の痛みが現れることがあるため、診察や、必要な場合には画像検査によって鑑別する必要があります。[3,4,5]
今回の事例で確認されたのは、治療後に痛みがほとんど消失したという変化です。その反応のみをもって、特定の骨の亜脱臼が確認されたことや、骨が元の位置に戻ったことが証明されるわけではありません。その後も同様の動作や日常的な使用において改善が維持されるかを確認する過程が必要です。
長引く手首の痛みがあるときは
手首がこわばって動かしにくい場合は、まず痛みを引き起こす動作を控え、痛みのない範囲でゆっくり動かしてみてください。手首を曲げ伸ばしする軽い動きであっても、痛みが強くなったり新たな症状が現れたりした場合は、中止することをお勧めします。[6]
手首を強く引っ張ったり、限界まで曲げたりして、ご自身で骨をはめ込もうとはしないでください。長く続く痛みや繰り返す痛みは、原因を確認したうえで、状態に合った運動や治療を選択することが望ましいです。受傷後にひどく腫れたり変形したりした場合、しびれや脱力感を伴う場合は、診療を受けてください。[3,6]
手首は小さな関節が連動して働く部位です。どこが痛むのか、どのように動かすと痛むのか、治療後に同様の動きがどのように変化するかを丁寧に確認していきます。
参考資料
[1] OpenStax, Anatomy & Physiology 2e, 8.2 Bones of the Upper Limb — 手根骨の構成と関節関係を説明する解剖学テキスト。
[2] Li et al. Wrist Bone Motion during Flexion-Extension and Radial-Ulnar Deviation: An MRI Study. Life. 2022;12:1458 — 5名の両手首を分析した生体MRI運動学研究。正常な動きを理解するための資料であり、本症例の診断や治療効果を証明するものではない。
[3] American Society for Surgery of the Hand, Scapholunate Torn Ligament — 舟状月状靭帯損傷と痛み・不安定性、評価を説明する学会の患者向け資料。
[4] Dietrich et al. Interdisciplinary consensus statements on imaging of scapholunate joint instability. European Radiology. 2021 — 舟状月状骨間不安定症が疑われる場合の画像評価に関する専門家コンセンサス。
[5] American Society for Surgery of the Hand, Tendinopathies および Occult scapholunate ganglion: A cause of dorsal radial wrist pain — 手首の腱の問題および手背側の痛みの他の原因に関する資料。個別患者の原因や一般的な原因別の割合を提示するために用いたものではない。
[6] NHS, Wrist pain および NHS inform, Exercises for wrist, hand and finger problems — 軽い運動と症状悪化時の中止に関する患者向け案内。
図は上記資料の解剖学的所見に基づき新たに作成した説明用模式図です。実際の患者の画像、診断結果、または治療前後の比較画像ではありません。角度や間隔は説明のために簡略化されており、実際の測定値ではありません。
